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名古屋地方裁判所 昭和38年(ワ)185号 判決

理由

訴外平出マグネトー工業株式会社が昭和三七年七月一六日名古屋地方裁判所において破産宣告を受け、原告がその破産管財人に選任されたことは被告大竹建機産業株式会社においては自白するところであり、被告山本岩雄は本件口頭弁論において明らかに争わないところであるからこれを自白したものとみなすべきものとする。

別紙目録記載の自動車が破産者の所有であつたこと及び破産者がこれを被告会社に譲渡したことは、いずれも当事者間に争いがない。

(証拠)を総合すれば、破産者は被告会社より将来継続的に融通手形の振出を受けるにつき本件自動車を担保となし、若し破産者において融通手形の満期二日前までにその手形の支払資金を提供しないとき又はその虞れあるときは右自動車の所有権を被告会社に移転する旨の代物弁済一方の予約をなしたこと、そして被告会社は昭和三七年三月一一日代物弁済完結の意思表示をなし、その一両日後に右自動車の引渡を受けたことが認められる。そうすると右自動車の代物弁済が否認せらるべき行為としての要件を具備するや否やは、昭和三六年六月八日に締結された代物弁済の予約当時の状況によつて定めなければならない(最高裁昭和三八、一〇、一〇判決民集一七巻一一号一、三一三頁)のであるが、(証拠)を総合すれば、昭和三六年六月八日当時破産者の経営状態は悪化し、資金繰に窮していたこと、そして破産者が倒産した昭和三七年三月頃には債務総額四億七千万円にして、その資産は金二億五六千万円に過ぎなかつたことが認められるから、右代物弁済の予約をした当時においては債務超過の状況にあり、従つて本件自動車を被告会社に譲渡することにより、他の一般債権者に対する共同担保を減少し、一般債権者を害するに至る状態にあつたことそして破産者は右事実を認識していたことがいずれも認められる。被告会社が右事実を知らなかつたということは、被告会社において主張立証しないところである。そうすれば原告が右代物弁済行為を否認し、被告会社に対して右自動車の返還を請求することは理由があるものといわなければならない。

(証拠)を総合すれば、被告会社は右自動車を被告山本岩雄をして保管せしめており(この点に関する証人大竹一弥の証言は措信しない)同被告はこれを使用せず内海化学工業株式会社に寄託していることが認められる。従つて被告会社は右自動車に対して代理占有権を有しているものというべきであるから、これを被告山本から返還を受けて原告に現実に引渡し、或は指図による引渡の方法によつて原告に引渡すことが可能である。原告は自動車は日々損耗するものであるから、被告会社は、破産財団を詐害行為当時における状態に復帰せしめるため、右自動車の返還に代えて、詐害行為当時における右自動車の価額金二〇〇万円を原告に賠償すべき義務があると主張するが、否認権行使の効果は本件自動車の所有権が破産財団に復帰するに止まり、それ以上の効果が発生するものではない。従つて被告会社は本件自動車を返還すれば足りるし、又原告も破産財団に復帰した自動車の引取りを拒絶して、その価額の賠償を請求する権利はない。(尤も被告会社が本件自動車を使用している場合には、被告会社は自動車の返還と共に自動車使用による利得を不当利得として返還しなければならないが、本件では前記の如く被告会社は本件自動車を使用していないのであるから、自動車使用による利得返還の問題は生じない)。よつて原告の被告会社に対する第一次的請求は失当として棄却を免れない。

以上認定の理由により被告会社は本件自動車を原告に引渡すべき義務があるのであるが、若し右自動車に対する引渡の強制執行(民事訴訟法第七三二条)が不能に帰したときは、被告会社は右自動車の引渡に代る損害賠償としてその価額に相当する金員を原告に支払うべき義務がある。よつて右自動車の価額について案ずるに(この価額は破産財団所属の自動車に対する引渡の強制執行が不能となつた場合において被告会社が賠償することを要する価額であつて破産法第七七条第一項により否認権行使の相手方が償還する価額ではないから、その価額は本件最後の口頭弁論終結当時における時価によるを相当とする)鑑定人山田昇の供述によれば本件最後の口頭弁論期日である昭和三九年八月六日当時における時価は金四五万円程度であると推測される。従つて被告会社は先ず原告に対して本件自動車を引渡すべく、若しその引渡の強制執行が不能に帰したときは右自動車の引渡に代る損害賠償として原告に対し金四五万円を支払わなければならない。

次に原告の被告山本岩雄に対する請求について案ずる。前記認定の如く被告山本岩雄は被告会社のために本件自動車を占有しているのであつて、被告両名の間に本件自動車の譲渡が行われた事実は認められない。そうすれば、原告は被告山本に対しては否認権を行使する必要なく、被告会社に対する否認権行使により破産財団に復帰した本件自動車の所有権に基づいて、被告山本にその引渡を請求すれば足りる。原告は被告山本に対し第一次的に自動車の引渡に代えて金二〇〇万円の支払を請求しているが、原告には、右自動車の引取りを拒否して自動車の価額相当の金員の支払を求める権利はない。よつて原告の被告山本に対する第一次的請求は失当として棄却を免れない。

被告山本は、原告の被告会社に対する否認権行使により本件自動車の所有権が破産財団に復帰した以上、右自動車は原告に引渡す義務があり、又右自動車引渡の強制執行が不能に帰したときは、右自動車の引渡に代わる損害賠償として、本件最後の口頭弁論期日たる昭和三九年八月六日現在における右自動車の価額相当の金四五万円を原告に支払うべき義務がある。

以上の理由により原告の本訴請求は、以上認定の限度において正当としてこれを認容し、その余は失当として棄却。

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